伊語とイタリアふつう生活 
by zefiro04
デキルひと
《中級》レベル。12回コ-ス。レベルテストなし。
時間午後。男性2人、女性4人。
一人を除いては、皆実力は似たり寄ったり。

先生は日本語を流暢に操るゴ-ジャス系美人のイタリア人。

《デキルひと》は最初から一線を画していました。
まず、授業が始まる前に一人ひとりにメモ帳片手に
「D です。あまり出来ないので、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、
よろしくお願いしまース。まずはお名前教えて下さーい」。

年の頃は60代くらいでしょうか、非常にスッキリとした印象の、見目麗しい方です。
黙って座っているだけでも、話しかけさせていただきたくなるようなフインキが漂って
いました。

しかしこのご挨拶まわりで、私はある不安に襲われてしまいました。
「また授業料をドブに捨てそうな予感。。。」

かくして不安は的中となるのですが、この人のために通わなくなるのも
アホくさいので、通学することに。

先生は毎回最初に、週末何をしていたかを皆に聞きます。
まだ話すのがやっとこさ、という実力であるのと、周りとのバランスも考え
皆長くても5分は掛からない程度に収めて終わるのですが、Dさんは毎回、
ネイティブ顔負けのスピ-ドで短くても20分は一人舞台、最高記録は40分。

その上、誰かが分からず口ごもると、即座に「これはこう言うのよ!」と助け船。
先生がイタリア語で説明するのに対し、質問をすれば彼女が答えるという活躍ぶり。

最初は先生の補助的《?》役割に徹していたDさんが、同時通訳者へ、そしていつのまにやら誰かの質問にも、彼女が答えるという訳分からん状態に。

女性陣は貝になり、男性二人は、Dさんに挑むかのように先生に質問するも、横からDさんが答え、それを完全無視して話しを続ける、という状況。

「先生、仕切ってくれよー」私は心の中で叫ぶも、Dさんは、イタリア勤務を経験し、通訳、翻訳もこなす百戦錬磨のスゴウデ《Dさんの最初の短くても20分のスピ-チより》

若いピチピチイタリア-ナに仕切れようはずもなく、教室は重苦しい雰囲気に。

そんな煮詰まって来た頃、一度だけDさんがお休みしたことがあります。
休む前の週に、自から説明されたところによると、世界的にも有名な某雑誌のパ-ティーで通訳の仕事があるから、とのことでした。

Dさんの居ない授業は、いつになく和やかな雰囲気。

帰りがけ、同じクラスのAさんが「これが普通の授業だよね。。。」と静かにポツリと呟いたのが印象的でした。

次の週に復活したDさんが、いつもよりパワフルだったのは、ご想像通りです。

この日、先生は私に最近見た映画はあるか?と質問されました。
私はイタリアもののタイトルをあげたように記憶しています。

しかし、どうやらこの映画はDさんのお気に入りだったらしく、いつにも増してのダンガント-クが炸裂してしまいました。

「しまったー。見なさそうなアメリカモノにしときゃ良かった。。」後悔先に立たず。
私は映画のタイトルを答えただけで、発言は終了。

この日のことは、ため息をつく程度の出来事ではありましたが、授業も後半になり、
小さなヤレヤレがかなり溜まっていたこともあり、私はDさんを疎ましく感じていました。

帰りがけ、Aさんに「またこのクラスを継続する?」と聞かれ、授業の始まる前にDさんが
「また皆さん楽しく勉強しましょうよお」と誘っていたことを話しました。
Aさんは即答で「彼女が居るなら辞める」と一言。私も「そうですよね~」と激しく同意しました。

次の週、少し早めについた私が、教室前で顔見知りと立ち話しをしているところへ、
Dさんが小さな新聞の切り抜きを私に見せに来ました。それは、先週私がタイトルを挙げた映画の放送紹介でした。とても小さい記事を、定規を使ったようにキチンと切り抜いてありまた。
Dさんは「あなたが話していたから」と私のために切り抜いてきてくれたのです。

私は、こんなに優秀なDさんが教室に通い続ける理由を理解しました。

彼女は《友達》を探しに来ていたのです。

哀れと、今までの疎ましさとの入り混じった複雑な感情に襲われ「はあ~」としか答えられませんでした。
こんなに輝かしいキャリア、素晴らしいご主人。。。皆から「お近づきになりたい」と思われる要素満載の彼女が友達を探しに来ているのです。

そして、彼女の行動が走馬灯のように思い出されました。
いつも早くに教室に入り、誰かに話しかける。しかし気づいていたのでしょうか。
誰も授業の直前にならないと教室に入らない理由を。

ほぼ毎回、皆にお菓子などの手土産を持って一生懸命話し掛けている姿と、
私がすでに「観た」と言った映画の放送予定を持ってくる、
心細やかだけど、ズレた心づかい

いつもシャキッとして聡明な彼女が、孤独な老婆に見えてしまいました。

Dさんは、黙っていれば人を惹き付けずにはいられない雰囲気がある方です。
とてもお優しい方でもあります。
でも「ウゼ--」のです。彼女のあれだけの魅力を持ってしても、この「ウゼ--」の
方が重いのです。

多分、そう感じたのは私だけではないように思います。
あれだけ饒舌なDさんの口から、個人的に親しいとして話されたお友達の話題が
思い出せません。

華やかな交友関係、輝かしいキャリアに関する数々の話。。。

結局、私はこのクラスの継続受講を希望しませんでした。
後で、このクラスの受講希望者の人数が足りなくて閉鎖になったのを知りました。

しばらくして、たまたま手に取ったある雑誌のインタビュ-記事を読んだ時、
訳者にDさんの名が記されていました。

彼女はまだイタリア語を習いに、自分のレベルとはかけ離れたクラスに通っているのでしょうか。

クラス分けテストは必要かもナ。。。
と、思った3ヶ月でした。

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by zefiro04 | 2004-11-03 17:46 | ひと
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